2011年12月

 
1.Centres GHESKIO(Groupe Haitien d`Etude du Sarcome de Kaposi et des Infections Opportunistes)
住所:33,Blvd Harry Truman,Port-au-prince
電話:509-2222-02241/2242

 

 ポルトープランスの中心街から海寄りにある貧困地区にある1982年設立のNGO、コーネル大学の医学校Weil Medical collegeが当初より関わっています。ハイチ保健省とも密接な関係があり、隣の国立のInstitut National de Laboratoire et de Recherches(INLR)、及び大学病院と連携しています。設立以来関わってきた所長のDr.Jean William PAPEにお話を伺い、Dr.JONSONに案内して頂きました。GESKIOとは「日和見感染、カポジ肉腫のハイチ研究グループ」の略、1981年より米国で報告された日和見感染とカポジ肉腫を併発する疾患を研究するために設立され、1983年には61例のハイチでの症例をNEJMに発表しています。「ハイチいのちとの闘い、日本人医師の300日」の著者である長崎大熱帯医学研究所の山本太郎医師も2003年から在籍し研究に従事されていました。ハイチの4大疾患、下痢、HIV/AIDS、結核、性感染症に焦点を絞った診療、研究を行っています。
 6月の巡回検診の際、レオガンの須藤シスターの居られるシグノ結核療養所を訪問した際、GHESKIOの医師が診療所を開いて診療を行っていました。多剤耐性結核患者(MDR)はポルトープランスのGHESKIOのMDRセンターにて隔離治療を受ける、と聞いていました。ポルトープランスには本部と米大の近くのTabarre地区にIMIS(Institut des Maladies Infectieuses et de Sante de la Reproduction)に拠点がありますが、2010年の地震により倒壊し現在はテント下でMDRの治療を行っています。ここには30床の病院建設が予定されています。
 本部では一日2200人の外来患者があり内100名が新患です。医師は16名で外来診療と研究を行っています。2010年は2203名の結核新患があったそうです(内49%が西県)。2010年の地震後、テント生活を余儀なくされた結果、小児の結核感染が50倍増加したそうです。ハイチでの結核罹患率は2.2%、結核患者の10~25%にHIVが感染、HIV感染者の50%が結核に感染しているそうです。また多剤耐性菌はPrimary Resistence 3%だそうです。GHESKIOはハイチ国内の116の公立・私立医療機関とネットワークを組み、国内10県すべてに計26箇所のエイズ治療拠点を持ち、年間2.5万人にARVを供給しているそうで、その治療成績は世界中の先進国と比べ遜色が無いそうです。
 研究部門では世界基金等から資金を得て、エイズワクチン、ACTG(Adult Clinical Trial Group)、コレラ等、16のプロジェクトを実施しているそうです。
「さて、それでは患者さん受診の流れに沿ってご案内しましょう」とDr.JONSONに御案内いただきました。まずは2階にある新患外来カウンセリングへ。ここの受診者は咳、微熱を持ちエイズの不安を抱えてやってきます。10人のカウンセラーが症状、病歴、家族状況を聞き受診番号をもらいます。次に1階の検査室へ。結核のスクリーニング(喀痰、Xp)、HIV,梅毒検査を受けます。患者データはコンピューターに登録されます。検査室は手狭ですが機器が並び日本の無償資金協力のシールを貼った機器がありました。同日、結果により、治療を即日開始(排菌者)、もしくはINHによる予防(HIV陽性)、HIV陽性妊婦の治療(HAART)による母子感染(MTCT)予防、性感染症治療、家族を含めたHIV陽性者のカウンセリング、栄養サポート、心理サポート、リプロダクティブヘルス、等に振り分けられるそうです。
 外来は結核外来(0~10歳、10~23歳、24歳以上)、ARV外来、性感染症(IST)外来があり、夫々別の建物に分かれています。またレイプ被害者を対象にカウンセリング、短期ARV治療、性病治療を行うセクションもあります。結核外来では年間600名が治療を受け、1000名がINHによる予防治療を受けています。リプロダクティブヘルス部門では、カウンセリングの結果、コンドームの使用によりHIV陽性患者の妊娠率を24%から4%に減らし、HIV陽性妊婦から母子感染を30%から8%に減少させることが出来たそうです。
 IST外来では、梅毒、淋病、クラミジア、コンジローム等と、あらゆる性感染症が見られるそうです。IST外来の隣にはワクチン部門があり、4種のワクチンを検討してきたそうですが未だ決定打は無いそうです。さらに隣には情報処理部門があり、全患者のデータを管理していて、画面を見ながらHIV患者数、感染率の年次経過を説明してくれました。「2010年までは、これでバイバイだったのだが」と言いつつ、外へ案内されました。そこはキスケージャ大学の敷地をGHESKIOが購入したところで、地震直後の1月14日には1000名の難民がキャンプが出来、その後2000名以上に膨れ上がった受傷者の治療、水の供給を行ったそうです。現在はテント村は無くなり、プレハブ2棟のリハビリ施設があり、リハビリを行っています。また2010年10月からのコレラの流行に際しては2箇所のコレラ治療センター(CTC)を設置し7000名の治療を行いました(死者18名、0.2%)。5月には10名の入院患者があったそうですが、訪問当日には12名が入院していました。ハイチ保健省は費用の点からコレラワクチンに消極的でしたが、2012年2月からワクチン投与開始を始めGHESKIOで5000名、地方で5000名のパイロットスタディを行うそうです。
 帰りに寄った事務棟でGHESKIO発表の60余りの論文コピーを頂きました。そのひとつには、GHESKIOは80余りの論文を発表し、主な重要発表は、

  1. 初めての先進国におけるAIDSの詳細な記述(NEJM1983)
  2. ハイチにおけるAIDSの特徴の記述。最初の熱帯途上国での記述。
  3. AIDSの、輸血、同性愛者間の感染から異性間感染への感染経路の劇的な変化
  4. AIDS患者の慢性下痢の原因は腸管コクシジウム(クリプトスポリジウム、イソスポラ、シクロスポラ)であると確認
  5. シクロスポラ症、イソスポラ症の初回治療・予防へのST合剤の確認
  6. 無症候性のHIV感染者へのINH投与が、INHの活動性結核の頻度の減少とは独立して、AIDS発症を遅延させることの確認
  7. HIV感染妊婦における高率の流産、高率の早期乳幼児死亡の確認
  8. HIV感染妊婦における母子感染率が30%である
  9. HIV陽性児の自然経過では6ヶ月以内に死亡率が50%を超える
  10. HIV感染成人の自然経過では感染後7.4年で死に至る
  11. AIDSと結核の合併患者では適切な治療、INHの予防投与にも拘らず高率に再発する
  12. シクロスポラ症、イソスポラ症のシプロキサンによる代替治療

とあります。
 GHESKIOの22年の歴史はハイチの苦難の歴史でもあり、デュバリエ独裁政権下、クーデターと経済制裁、2004年のアリスティッド大統領の追放、と政治の混乱の度に困難な運営を強いられてきました。2011年のマルテリー大統領の選出により、今後のGHESKIOの活動が安定して行えることを願わずには居られませんでした。

 

2.Docteur Pierre POMPEE
住所:Rue Rigaud,Hotel Le Village,Apt.1,Petion-Ville
電話:509-2222-02241/2242

 大使館から3分、「Eden Plaza」とある建物に入り、右手の入り口から入る眼科・耳鼻科開業医、1993年に現在地に開業しました。ベルギーのブリュッセル自由大学で眼科を学び眼科専門医となり、耳鼻科はポルトープランスに戻りHôpital Generalで学びました。眼科は手術も行いHôpital de la Communauté Haitienne(HCH)で行っています。耳鼻科は内科的治療だけを行っています。診療室には博物館にあるような旧式の眼底検査装置や屈折計が並んでいました。検査が必要な場合はMEDLABOに依頼するそうです。英語も話されますが、米大の眼科・耳鼻科医のリストにはありません。一日30人の外来患者はほとんどがハイチ人です。

 

 
 
 

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