|
海外安全対策情報(ハイチ)2014年 7月~12月
1.治安・社会情勢
(1)2014年12月末現在のハイチ治安情勢は,全般的に平静を保っているといえる。しかし,選挙を控え不安定化する危険性は依然として存在している。貧困問題に加え,2010年1月12日に発生したハイチ大地震後に設置された被災民キャンプは減少したものの依然として存在しており,キャンプ内での犯罪行為も指摘されている。また,周辺の中南米諸国に比較すると殺人等の事件発生件数は多くはないが,医療機関が十分に整備されていないため,事故や事件に巻き込まれて負傷した際には満足な治療を受けることは難しく,周辺諸国への緊急移送が必要となる可能性が高い。
(2)ほとんどの事件は人口が集中した首都周辺地域で発生しており,強盗や誘拐については無防備な外国人や富裕層ばかりでなく一般のハイチ人もターゲットにされ,場所や時間帯を問わずバイクや自動車で尾行し,交差点や通行妨害等により停車したタイミングを狙い襲撃する手口や,レストランや銀行等での待ち伏せ及び住居への押入り強盗等の手口がみられる。また,殺人事件等の犯罪における銃の使用率は非常に高い。
(3)2014年8月,アリスティド元大統領に対する裁判所の召喚状及び拘引状発行手続きがなされた。本件について,首都ポルトープランス市(タバール地区)を中心に同元大統領支持グループによる道路封鎖やデモが発生し,緊張状態は今も継続している。万が一元大統領が出頭拘引となった場合及び混乱の最中に支持者に死者が出るなどの大きな被害が発生した場合は,反対運動が大きな盛り上がりを見せ大きな混乱に発展することが予想されるため引き続き注意が必要。
(4)2014年10月26日に予定されていた選挙が延期となり,反政府及び生活環境への不満に対するデモが首都圏や主要道路において頻繁に発生しており,岩や木の幹を置く,タイヤを燃やすなどの方法によりバリケードを構築して通行妨害し,対応する国家警察及び国連部隊との衝突により興奮状態となった住民が投石等の過激行動をとる場合もあり,歩行者や通行車両が混乱に巻き込まれるケースがある。特に,プチゴワーブ市周辺の国道2号線においては,周辺住民の政治家への不満が大きく,多くのデモやロードブロックが発生している。通常,デモの群衆は警察による催涙弾で鎮圧されることが多いが,群衆も銃器を所持している場合もあり,銃撃戦などに発展する危険性も排除できない。なお,2015年実施予定の選挙に向け,各政治アクター間で合意が形成されない場合は,大規模なデモから国内の騒擾につながる危険性も十分考慮しておくべきである。
2.殺人・強盗等凶悪犯罪の事例及び一般犯罪の傾向
(1)邦人被害
7月1日,レオガン市において、日本の援助団体に対する強盗事案が発生した。深夜3時頃,同団体事務所兼住居の裏庭より強盗2人組が敷地内に侵入,物音に気づいた民間警備会社派遣警備員(銃の携帯なし)が近づいたところ,銃を保持する強盗1名より声を出さないように脅され, その間にもう一方の強盗が,事務所裏庭に設置してあるインバーター用のバッテリー24個のうち4個の接続ケーブルを切り離し,その後強盗2人組は右バッテリー4個を持ち出して壁を乗り越えて逃走した。
事件の後,日本人勤務者は,住居を治安の比較的良い別地域に移動している。
(2)強盗(主な報道・事件)
昨年同時期に比べ,発生数に減少傾向は見られない。
(ア)7月,アメリカ外交団の発表によると,首都ポルトープランス市において米国国籍の女性が武装した強盗に襲われ殺害された。強盗は,国際空港から同女性を付け狙い犯行に及んだものと思料される。
(イ)8月5日現地報道によると,首都ポルトープランス市ジョンブラウン通りにおいて,当地ラジオ局の関係者5人が,銀行帰りにバイクに乗った2人組に拳銃にて襲撃され現金を強奪された。襲撃された5人の内,現金を所持していた1名は手足を撃たれ重体,病院へ搬送された。
(ウ)9月19日現地当局の発表によると,銀行帰りの人間を狙い強盗を行っていたグループの1つを検挙した。車輌5台,バイク4台が押収された。
(エ)12月23日現地報道によると,19日,マルティニク在住の男性が国際空港からの帰りに車輌を襲撃され殺害された。犯人は現金等を奪い逃走している。
(3)殺人(主な報道・事件)
昨年同時期及び直近の数年間に比べ,発生数は増加傾向である。
(ア)10月16日現地報道によると,14日及び15日に,首都ポルトープランス市のラサリーヌエリアではバイク等を使った殺傷事件が多発し,子供を合わせ10人が死傷した。
(イ)10月22日現地報道によると,21日,首都ポルトープランス市NAZONエリアにおいて,男性が銀行の帰路にて, バイクに乗った4人に銃撃される事件が発生した。
(ウ)10月10日現地報道によると,男性2名が首都ポルトープランス市でサッカーの試合を観戦後帰宅の際に,バイクに乗った複数人に殺害された。殺害された2名の内1名は,市が催す予定のイベントについて,市の関係者と調整上もめていたとの情報もあり,事実関係の確認が進んでいる。
(エ)11月6日,夕方過頃,ペチョンビル市内において男性1名がバイクに乗った2人組に銃撃され死亡した。警察は,依頼された殺人の可能性を示唆している。
また,同日首都圏において,他2件バイクに乗った男に銃撃され死亡する事件が発生している。
(オ)12月18日,プチゴワーブ市において,報道番組VISION PLUS記者兼カメラマンが何者かに銃撃された。幸いにも怪我はなかった。
(4)強姦 (主な報道・事件)
目立った報道などはないが常に発生している。
昨年同時期及び直近の数年間に比べ,発生数は増加傾向である。
(5)デモ(主な報道・事件)
昨年同時期と比べ,発生数は増加傾向である。
過激派野党を中心に多発している。首都においては,セントジャンボスコ教会から大統領府を目指すルートが取られることが一般的だが,希に別ルート(空港付近・ペチョンビル市等)を取ることもある。デモに触発され興奮した住民による活動が活発になる危険性も考えられるため,警戒が必要。
<首都ポルトープランス市>
- 10月17日,首都ポルトープランス市においてハイチ建国の父ジャン・ジャック・デサリーヌ没後208年の節目の日に,野党勢力MOPODがデモを実施した。
- 10月23日及び30日, 首都ポルトープランス市において,10月17日のデモで逮捕された仲間の解放を掲げた,野党勢力MOPOD等によるデモが実施された。
- 10月26日,首都ポルトープランス市を中心に,野党勢力によるデモが実施された。この日は,国政選挙が実施される予定とされていたが,延期が決定したことに対し抗議したもの。
- 11月18日,25日,28日及び29日,野党勢力MOPOD等による反政府デモが実施された。規模は,参加人数が3,000人~5,000人と今年起こったデモの中では比較的大きく,デモ隊は最終日,デモ隊はアメリカ大使館を目指したが警察により制止された。
- 12月5日,6日,12日,13日,16日,18日,24日,26日,31日, 野党勢力MOPOD等による反政府デモが実施された。18日に関しては,デモ隊は大使館の在るペチョンビル市をルートとして選び,大使館側の大通りを警察特殊部隊の監視の中通過し,市民は警戒態勢を取ったが大きな混乱は生じなかった。
<プチゴワーブ市>
- 9月30日,プチゴワーブ市において市民が市政へ対する不満からデモを実施,石等が飛び交い騒然となり,刃物で切りつけられる等した5名が重傷を負った。翌日10月1日,市民は国道2号線を封鎖,タイヤを燃やす等抗議を行った。
- 現地報道によると,10月15日,プチゴワーブ市においてデモがあり,市民はタイヤを燃やす等し国道2号線を封鎖した。翌日16日にマルテリ大統領が市を訪問するとの予定があったようで,来訪を良く思わない市民が抗議を行ったと見られている。
- 10月23日現地報道によると,10月23日,プチゴワーブ市において市長追放を叫ぶ数千人の市民がデモを実施した。警察官が出動し催涙ガスや拳銃を使用,結果2名の学生が死傷した。
(6)麻薬(主な報道・事件)
当地における体感では, MINUSTAHデータ以上に犯罪に係わる人間は多いと思料する。
- 7月3日現地報道によると,ハイチ警察は国内で麻薬流通に係わったとし,警察官2人を解雇した。
- 7月10日現地当局の発表によると,ハイチ国内において,麻薬ビジネスに係わったとみられる30人を逮捕した。車輌やボートとともにコカイン219.40㎏等が押収された。
- 9月19日現地当局の発表によると,ハイチ国内において,9月内ですでに大麻89㎏及びコカイン1㎏を押収したとのこと。
- 11月13日現地当局の発表によると,フロード・テレマック警察部長を麻薬取引に係わっていたとして逮捕したと伝えた。
(7)その他 (主な報道・事件)
(ア)7月10日現地報道によると,ハイチとドミニカ共和国国境において,子供の人身売買に係わったとされる6人が逮捕された。麻薬や銃器の流通にも係わったとされる。
(イ)7月15日現地報道によると,南東県コップ・シャント地域において,家畜を盗もうとした2人が市民による集団暴行に遭う事件あった。拳銃を保持した警察が駆けつけ事態は収束した。
(ウ)8月10日,10人前後の武装集団が首都ポルトープランス市より凡そ13キロメートル東に位置するクロ・デ・ブーケ市で刑務所を襲撃,多数(凡そ300人)の囚人が逃走,国外脱出した者もいると見られ,脱獄囚の再逮捕は難航している模様。
(エ)9月19日,北県カパイシアン市において,囚人3人(終身刑の者2人を含む)が刑務所から脱走した。
(オ)9月19日現地当局の発表によると,警察は9月初めの2週間で違法所持されていた銃器10丁を押収した。
3.テロ・爆弾事件発生状況
当国においては当該事件の発生は認知されていない。
4.誘拐・脅迫事件発生状況
(1)邦人被害
邦人被害は発生していない。
(2)昨年同時期及び直近の数年間に比べ,発生数は減少傾向である。
当国における誘拐事件は,従前より首都圏を中心とした犯罪者集団及びその模倣犯による富裕層をターゲットとした無差別誘拐が大半を占めていたが,ハイチ国家警察及びMINUSTAHの活動により,最近では誘拐事件発生件数は低下してきている。
(ア)7月8日現地当局の発表によると,ペチョンビル市近郊において米国籍の女性を誘拐し身代金を請求していたとされる2人を逮捕した。
(イ)10月10日,2010年12月に脱獄したダニス・アシュレイ他2名(誘拐犯)が再逮捕された。脱獄後,彼らは強盗・盗難犯罪等の犯罪に係わったとされ,銃器や大麻畑が押収されている。
5.対日感情
対日感情は基本的に良好であり,特段の変化は見られない。
6.日本企業の安全に係わる諸問題
現在,当地に日本企業は存在していないが,当地でのビジネスを模索する企業にとっては,治安情報を考慮した防犯対策及び交通機関等のインフラ環境が懸念材料となっている。
7.邦人安全対策のためにとられている具体的処置
当地へ来訪のNGO及びJICA関係者等に対し安全ブリーフィングを行い,必要に応じて,治安情勢及び注意喚起のメール一斉配信を実施している。
|
|