海外安全対策情報(2019年4月~6月)
令和元年7月26日
1 治安・社会情勢
(1)2019年3月にラパン(Jean Michel LAPIN)文化コミュニケーション大臣を暫定首相とする大統領令が公布され,4月9日に大統領が同氏を新首相に指名した。5月に入り,1日にカンターヴ(Carl Murat CANTAVE)上院議長は,ラパン暫定首相兼文化・コミュニケーション大臣の任命に向けた文書を精査する上院委員会を設立し,9日に上院で施政方針演説に向けた特別招集議会を開会すると述べた。しかし,8日にジョゼフ(Willot JOSEPH)上院委員会副委員長は,9日予定の特別招集議会を延期すると発表した。12日に上院で施政方針演説に向けた特別招集議会が開会され,同議会には上院議員26名,ラパン暫定首相と新内閣閣僚が参集したが,アリー司法・公安大臣は欠席した。同議会では,施政方針演説を読み上げさせないために,シェラミー(Antonio CHERAMY, Don KATO)上院議員(VERITE党,西県選出)等の反対派野党議員4名が激しい抗議行動を行った結果,施政方針演説が延期された。14日に第2回特別招集議会を開会したが,反対派議員によって同様に延期された。30日にラパン暫定首相の任命に向け,3度目となる特別招集議会が予定されていたが,反対派野党議員4名が司法・公安大臣の留任等を口実に,同日早朝の開会前に上院議会の机,椅子,各種機材を破壊し,中庭にそれらを捨てる等して妨害行為を行い,開会を中止させた。
6月,9日にペトロカリベ汚職問題の責任追及とモイーズ大統領退陣を求めるデモが発生し,死者,負傷者,逮捕者を出す事態に発展した。総勢1万人のデモ参加者のうち,過激派は大統領府付近等で投石,銃撃,放火を行い,大統領私邸付近でも,デモ参加者と警官が衝突した。また,仏大使館は投石・門戸放火被害に遭った。10日に数百名規模の暴力的なデモ参加者が,テレビ局の車両を放火する等,メディアを攻撃し,前日に比べて動員数は限定的であったものの,暴力的なデモとなった。11日にポルトープランス(Port-au-Prince)およびペチョンビル(Petion-Ville)市内でデモや暴力行為が継続し,メディア関係者が殺害された。また,上院での首相の任命プロセスが中断され,下院議員が連名で大統領の辞任を求める声明を発出した。12日にモイーズ大統領は,ペトロカリベ汚職問題には関与していないとした上で,国民対話を呼びかけ,辞任しない意向を示唆したほか,ラパン暫定首相も辞任しないとする立場を示した。しかし,反対勢力は一方的に暫定政権樹立に向けた委員会の立ち上げを発表した。更に急進派野党は,モイーズ大統領を正統な大統領と認めないとする声明を発出し,即時辞任を強く求めた。13日にポルトープランス(Port-au-Prince)市内で死者,負傷者が発生し,ロードブロック等も継続した。なお,大統領府付近での投石等がエスカレートしたため,警察は応戦して制圧した。また,一部の下院議員と実業家はモイーズ大統領の即時辞任と政権交代が実現するまでデモの動員を支持するとした。
モイーズ大統領就任後,2年が経過したものの,与野党間の不満や生活環境等の改善に向けた各種デモは断続的に発生し,貧困層の生活レベルにおいてはただちに改善があるわけでもなく,また,通貨安高インフレ率による厳しい経済状況は継続しており,特に一般労働者層や低所得者層の生活に多大な影響をおよぼし,社会不安の要因ともなっている。このような状況に対する不満も背景に,人口の大部分を占める貧しい人々は,デモ等で不満をぶつけたり,犯罪に訴える場合も少なくないと考えられ,反政権勢力の示威運動に合流する理由となり得ることから,引き続き,今後の情勢に注視が必要となっている。
(2)首都ポルトープランス(Port-au-Prince)市マルティッサン(Martissant)地区及びカルフール・フイユ(Carrefour Feuilles)地区やカルフール(Carrefour)市周辺において,殺人・強盗・誘拐・強姦等の凶悪犯罪やギャング同士による銃撃戦等の抗争が発生しているため,事態収束までの間,国道2号線が通過する同地域の不要不急の通行は控え,やむを得ず通行する場合には細心の注意が必要となっている。また,最近では,ラサリーヌ(La saline)地区やベレール(Bel Air)地区及びシテ・ソレイユ(Cite soleil)市周辺においても同様の凶悪犯罪や,同じくギャング同士による銃撃戦等の抗争が発生しているため,同地区付近(国道1号線や国道9号線)についても同様の対応が必要となっている。なお,同地区での最近の治安悪化に伴い,ハイチ国家警察(PNH)によるスラム街を中心としたギャング等に対する掃討作戦や取締りを実施し,治安維持の強化を図っており,その反発で警察官や一般市民が巻き込まれる事案等も発生しているため,ギャング等が潜伏しているスラム街等に近づかないよう,白昼であっても細心の注意が必要となっている。
(3)ハイチで発生する犯罪の約80%,デモの約60%が人口の集中する首都圏で発生しているのがハイチの特徴であり,強盗や誘拐については無防備な外国人や富裕層ばかりでなく一般のハイチ人もターゲットにされ,場所や時間帯を問わずバイクや自動車で尾行し,交差点や通行妨害等により停車したタイミングを狙い襲撃する手口や,女性の単独運転の車両等を狙ったレストランや銀行等での待ち伏せ,空港からの帰路を狙った拳銃強盗犯罪及び住居への押入り強盗等の手口が最近は特に多くみられる。また,殺人事件等の犯罪における銃の使用率は極めて高く,拳銃強盗は,先ず被害者を撃ち,身動きをとれなくしてから物を奪う手口も多発するなど凶悪な例もみられ注意が必要となっている。
(4)2017年10月,MINUSTAHの後継PKOである国連ハイチ司法支援ミッション(MINUJUSTH)が設置されたが,2019年10月をもってMINUJUSTHの撤収が決定した。また,撤収後はハイチにおける特別政治ミッション(SPM)へ移行し,国連ハイチ統合オフィス(BINUH)を設立されることとなるが,外国人警察部隊の撤収が今後どのように治安等に影響し得るか注視が必要となっている。
2 殺人・強盗等凶悪犯罪の事例及び一般犯罪の傾向
(1)強盗《傾向》不明
《主な報道・事件》特になし。
(2)殺人
《傾向》不明
《主な報道・事件》
ア 4月4日 西県警察署の報告によると,2019年2月から3月にかけて合計13人の警官が身元不明の者によって銃殺された。なお,銃による負傷した警官は15人,交通事故で負傷した警官は5人,デモの投石によって負傷した警官は8名になる。
イ 4月22日 スラム街西県ラ・サリーヌ(La Saline)からほど遠くない場所で,やけどを負った人のほか,首から上が切断された人の死体が発見された。
ウ 4月29日 国道1号線で,タプタプ(乗合タクシー)乗車中の警官が殺害され所持していた拳銃が盗まれた。
エ 5月7日 武装した複数名によりアルティボニット県ゴナイーヴ(Gonaives)の若い実業家が銃殺された。
オ 5月24日 西県レオガン(Leogane)で身元不明の何者かに銃で撃たれ警官が死亡。この15日間で,銃で殺された警官は4人となった。
カ 5月27日 西県カナペベール(Canape Vert)の警官が,身元不明の何者かに銃で撃たれ亡くなった事件を受け,その地区の住人は怒りをあらわにし,ロードブロックや投石等の抗議が実施された。今年に入ってから15人以上の警官が死亡している。
キ 6月3日 西県クロワデブーケ(Croix des Bouques)市で小さなスーパーから出てきた警官が,バイクに乗って武装した何者かに銃で撃たれ,死亡した。
ク 6月18日 アルティボニット県(Artibonite)でギャング同士の抗争が発生し6人が死亡した。それ以外に付近を通りかかった高校生1人が巻き込まれ死亡した。
(3)強姦
《傾向》不明
《主な報道・事件》
5月17日 キスケヤ大学の生徒2人が,大学からの帰り道に何者かに襲われて,性的暴行の被害にあった。
(4)デモ(主な報道・事件)
《傾向》不明(投石,放火,略奪行為ほか,警察と衝突し暴徒化するケースが増えている)
《主な報道・事件》
ア 4月3日 選挙が近づき,首都最大のスラムである西県シテ・ソレイユ(Cite Soleil)市での暴力行為が始まった。
イ 4月26日 ペトロカリベ基金の汚職問題の不処罰に抗議する数百名(通称:ペトロカリベ・チャレンジャー)が,行政訴訟高等裁判所(CSCCA)の前で座り込みを行った後,タイヤを燃やす等の抗議行動を行い,ハイチ国家警察(PNH)による催涙弾を受けて解散するまでに至った。
ウ 6月9日 ペトロカリベ汚職問題の責任追及とモイーズ大統領退陣を求めるデモが発生し,死者,負傷者,逮捕者を出す事態に発展した。総勢1万人のデモ参加者のうち,過激派は大統領府付近等で投石,銃撃,放火を行った。大統領私邸付近でも,デモ参加者と警官が衝突し,仏大使館は投石・門戸放火被害に遭った。
エ 6月10日 数百名規模の暴力的なデモ参加者が,テレビ局の車両を放火する等,メディアをターゲットにし攻撃した。前日に比べて動員数は限定的であったものの,暴力的なデモとなった。
オ 6月11日 ポルトープランス(Port-au-Prince)およびペチョンビル(Petion-Ville)市内でデモや暴力行為が継続し,メディア関係者が殺害された。上院での首相の任命プロセスが中断され,下院議員が連名で大統領の辞任を求める声明を発出した。
カ 6月13日 ポルトープランス(Port-au-Prince)市内で死者,負傷者が発生し,ロードブロック等も継続し,大統領府付近での投石等がエスカレートしたため,警察は応戦して制圧した。また,一部の下院議員と実業家はモイーズ大統領の即時辞任と政権交代が実現するまでデモの動員を支持するとした。
キ 6月24日 西県ポルトープランス(Port-au-Prince)市,グランダンス県ジェレミー(Jeremie)市,アルティボニット県サンマルク(Saint-Marc)市でデモが行われ,6人が負傷した。
(5)麻薬
《傾向》不明
《主な報道・事件》
5月21日 ニップ県プチ・リビエール(Petite Riviere)で4人のジャマイカ人が174キロのマリファナ所持の疑いで逮捕された。
(6)その他
《主な報道・事件》
ア 4月4日 アルティボニット県(Artibonite)の地元メディアは,夜明け前に開始し午後に終了したギャングリーダー逮捕を目的としたハイチ国家警察のオペレーションは失敗に終わり,治安部隊の間で1人死亡,1人負傷者したと発表した。
イ 4月19日 アルティボニット県(Artibonite)プチ・リビエール(Petite Riviere)市で,武装した複数名が警察署を襲撃し,少なくとも1人の警官が死亡,警察署は放火され,数件の民家も略奪の被害に遭った。なお,この事件は数名のギャングメンバーの逮捕が発端となっている。
ウ 4月21日 西県デルマ19(Delmas)でギャンググループ同士の抗争により2人死亡,複数名が負傷した。
エ 4月22日 警察高等評議会(CSPN)はギャング取締りのオペレーションを発表。ラパン暫定首相は,19日の警察署襲撃事件を受けて,ギャングに対する緊急のオペレーションを指示した。
オ 4月25日 スラム街西県カルフール・フイユ(Carrefour Feuilles)でギャンググループが関連した事件により7人が銃で死亡,約10人が負傷した。
カ 4月26日 司法当局によると,ラフィトー港から武器を積んだと思われるコンテナー16個が輸入され,取締りのため港が一時閉鎖し,既に2人の従業員が逮捕された。
キ 4月29日 スラム街西県カルフール・フイユ(Carrefour Feuilles)の住民を混乱させていたギャングリーダーが,デルマ83(Delmas)で警察当局との銃撃戦により死亡した。
ク 5月2日 取締りにより29日に死亡したギャングリーダーが武器を隠していた場所が発見され,複数の銃などを押収した。
ケ 5月7日 2人のハイチ人が殺人容疑でドミニカ共和国にて逮捕され強制送還された。
コ 5月9日 アルティボニット県(Artibonite)を支配しているギャングメンバー53名(内6名女性)が逮捕された。
サ 5月29日 武装解除・社会復帰国家委員会(CNDDR)の設置から2か月が経過し,スラム街西県シテ・ソレイユ(Cite Soleil)市のギャンググループのものと思われる銃8丁を押収した。
シ 5月29日 ハイチ国家警察の報告書によると2019年3月20日から5月28日までの2か月間,銃で殺害された警官4人,銃で負傷した警官5人,投石で負傷した警官8人,逮捕者13人,性的暴力事件22件と公表された。
ス 6月12日 モイーズ大統領は,ペトロカリベ汚職問題には関与していないとした上で,国民対話を呼びかけ,辞任しない意向を示唆したほか,ラパン暫定首相も辞任しないとする立場を示した。しかし,反対勢力は一方的に暫定政権樹立に向けた委員会の立ち上げを発表し,更に急進派野党は,モイーズ大統領を正統な大統領と認めないとする声明を発出し,即時辞任を強く求めた。
セ 6月24日 国連(MINUJUSTH)は,2018年11月13日,14日に起きたラ・サリーヌ虐殺事件の報告書を公表した。
3 テロ・爆弾事件発生状況
当国においては当該事件の発生は認知されていない。4 誘拐・脅迫事件発生状況
《傾向》不明《主な報道・事件》
6月3日 会計検査院の検査官2人と運転手1人が国家空港当局(AAN)を訪問していたところ,身元不明の武装した何者かに誘拐されそうになったが,通りかかった警察官に助けられ,事件は未遂に終わった。