海外安全対策情報(2019年1月~3月)
平成31年4月19日
1 治安・社会情勢
(1)昨年7月,かねてより計画されていた国家財政健全化のための燃料費等の値上げの公表に対して国民が反発し,首都圏ほかにおいて一時大規模な抗議行動(広範囲に渡る道路封鎖や略奪行為)が発生した。
本年2月のモイーズ大統領就任2周年記念日を契機に,首都ポルトープランスや主要都市で10日間に及ぶ大統領の退陣を求める反政府デモ(通称:ペイロック(PAY LOCK))が行われ,略奪行為,ロードブロック,投石,治安部隊との衝突が散発的に発生した。なお,ペイロックの長期化に伴い,首都や主要都市の治安が不安定化し,経済活動が停滞した影響でガソリン,ガス,食糧,水へのアクセスが困難となり,学校は休校,一部病院も休業となった。企業は経済活動のまひによる損害を受けたほか,税関が閉鎖されたことにより,広範囲に及ぶ社会経済的損失が生じた。
3月,セアン(Jean Henri CEANT)前首相は上下両院の問責決議のために召還され,上院では,定足数が足りず,問責決議票は投票に付されなかったが,一方の下院では問責決議が可決され,首相の罷免と内閣総辞職が確定し,新たな首相の任命を大統領に求める書簡が送られた。
同月21日にラパン(Jean Michel LAPIN)文化コミュニケーション大臣を暫定首相とする大統領令が公布され,また,4月8日に大統領が同氏を新首相として指名したものの,通貨安と高インフレ率による厳しい経済状況は継続しており,特に一般労働者層や低所得者層の生活に多大な影響をおよぼし,社会不安の要因ともなっている。こうした状況を背景に,人口の大部分を占める貧しい人々は,デモ等で不満をぶつけたり,犯罪に訴える場合も少なくないと考えられ,反政権勢力の示唆行動に合流する理由となり得ることから,今後の情勢に注視が必要となっている。
(2)ハイチ国家警察(PNH)によるスラム街を中心としたギャング等に対する掃討作戦に加え新たに取締りを実施し,治安維持の強化を図ってはいるものの,その反発で警察官や一般市民が巻き込まれる事案等も多く発生している。
首都ポルトープランス市マルティッサン(Martissant)地区周辺でギャング同士の抗争による銃撃戦等が過熱しており,同地区近辺を通る国道2号線沿いや周辺で通行者が巻き込まれる事件が発生しているため,白昼であっても細心の注意が必要である。また最近では,シテ・ソレイユ(Cite soleil)市周辺,ラサリーヌ(la saline)地区,ベレール(Bel Air)地区,カルフール・フイユ(Carrefour Feuille)地区,カルフール(Carrefour)市周辺においても,殺人・強盗・誘拐・強姦等の凶悪犯罪や特にギャング同士による銃撃戦等の抗争も発生しているため,ギャング等が潜伏しているスラム街等に近づかないよう,併せて注意が必要である。
(3)ハイチでの約80%,デモの約60%が人口の集中する首都圏で発生しているのがハイチの特徴であり,強盗や誘拐については無防備な外国人や富裕層ばかりでなく一般のハイチ人もターゲットにされ,場所や時間帯を問わずバイクや自動車で尾行し,交差点や通行妨害等により停車したタイミングを狙い襲撃する手口や,女性の単独運転の車両等を狙ったレストランや銀行等での待ち伏せ,空港からの帰路を狙った拳銃強盗犯罪及び住居への押入り強盗等の手口が最近は特に多くみられる。また,殺人事件等の犯罪における銃の使用率は極めて高く,拳銃強盗は,先ず被害者を撃ち,身動きがとれなくしてから物を奪う手口も多発するなど凶悪な例もみられ注意が必要である。
(4)2017年10月に,MINUSTAHの後継PKOである国連ハイチ司法支援ミッション(MINUJUSTH)が設置されたが,2019年10月をもってMINUJUSTHの撤収が決定されているため,同撤収が今後どのように治安等に影響し得るか注視が必要となっている。
2 殺人・強盗等凶悪犯罪の事例及び一般犯罪の傾向
(1)強盗
《傾向》不明
《主な報道・事件》
ア 1月9日 ペチョンビル(Petion-Ville)市内にあるホテルオアシスの車に乗車中,身元不明の複数名による強盗事件が発生した。数名の警官が介入し,容疑者たちは逃走のため銃を発砲,2人が負傷した。(1人は警官)
イ 1月10日 カルフール・フイユ(Carrefour Feuille)地区で銃撃が続き,警官一人が殺害された。ハイチ国家警察は,同地区のギャング勢力を抑えよう警戒を強化している。
ウ 2月20日 マルティッサン(Martissant)で警官1人が武装した複数名に殺害された。このほかにも,バスの運転手を含む複数名の遺体が発見された。
(2)殺人
《傾向》不明
《主な報道・事件》
ア 1月8日 ペチョンビル(Petion-Ville)市の実業家が何者かに殺害された。ペチョンビル警察署によると,身元不明の複数名が事務所に押し入り銃撃した模様。
イ 1月16日 カパイシアン(Cap Haitian)市の実業家が車に乗車中,身元不明の複数名に頭部を何発か銃撃され殺害された。
ウ 1月22日 大統領府付近で武装した複数名がハイチ国家警察の警官2人に発砲した。原因は,喧嘩をしている複数人に警官が介入しようとしたところ,喧嘩をしていた人物が武器を持った仲間を呼び寄せ,事件に発展した。結果,2人の警官のうち1人はその場で死亡,もう1人は病院に搬送された。
エ 1月25日 デルマ(Delmas)12と14の間で,一人の警官が殺害された。殺害された警官は,交通機関に乗車中,バイクに乗車している複数名により10発以上の銃弾を受け死亡した。事件の動機は判明していない。また,24日から25日にかけての夜にも,死亡した1人の警官が発見された。警察によると,この2つの事件を合わせ,1月で約10人の警官が銃により殺害された。
オ 3月27日 ポルトープランス(Port-au-Prince)市のクロワ・デ・ブーケ(Croix-des-Bouquets)地区において,プロジェクトのサイト訪問のため現地を往訪していたチリ大使夫妻,ハイチ水・衛生局(DINEPA)及びNGO団体を含む車列が武装集団に襲撃された。(同NGO団体職員1名が死亡,2名が負傷)
(3)強姦
《傾向》不明
《主な報道・事件》特になし。
(4)デモ(主な報道・事件)
《傾向》不明(投石ほか,警察と衝突するケースが増えている)
《主な報道・事件》
ア 1月14日 中央県ラスカオバス(Lascahobas)にて実施されたデモが激化し,2人が死亡,5人が負傷した。負傷した1人は,県別治安維持部隊(UDMO)の警官である。デモの目的は,数か月前から続いている長時間にわたる停電の改善を要求するものである。
イ 2月7日 大統領就任2周年に合わせて国内各地でモイーズ大統領の退陣を求める反政府デモが実施された。
ウ 2月7日 首都ポルトープランス(Port-au-Prince)市は,朝から人気が無く,全ての経済活動が麻痺状態となった。デモ隊はとりわけ国道2号線やデルマ(delmas)30のあたりでバリケードを設置していた。
エ 2月8日 ハイチ国家警察は,少なくとも2人の死者,16人の怪我人(うち14人は警官),放火された車両6台,逮捕者36人,(西県(Ouest)13人,アルティボニット県(artibonite)9人)のほか,中央県(Centre)のある警察署が襲撃にあったと発表した。
オ 2月20日 ノートルダム大学の教師生徒らは,4日デルマ(Delmas)95で治安維持部隊の銃弾にあたって死亡した生徒の追悼と正当な司法を求めて行進した。
(5)麻薬
《傾向》不明
《主な報道・事件》
3月6日 元議員は国境に向かう途中の車両で,491グラムのマリファナを所持していたとして逮捕された。車両の中には2人のハイチ人とジャマイカ人が同乗していた。
(6)その他
《主な報道・事件》
ア 1月6日 ハイチ国家警察は,ポルトープランス市サバヌピスタシュ(Port-au-Prince,Savane Pistache)地区で,ギャングリーダーの逮捕を目的とした取締りを実施,リーダーの右腕とされる人物を逮捕した。
イ 1月27日 アルティボニット県モンルイ(Artibonite,Montrouis)で,身元不明の複数名が交番と付近に駐車してあった車両複数台に放火した。警察によると,住民間の土地紛争により27日から国道1号線上でバリケードが設置され,警察が撤去をしようとしたことへの抵抗である。
ウ 2月5日 県別治安維持部隊(UDMO)の警官が国立劇場近くで,パトロール中,武装した身元不明の複数名に襲撃され2名が負傷した。警察によると,ギャングなどに対する取締りを強化してから,この地区での銃撃事件は増えている。
エ 2月8日 ペチョンビル(Petion-Ville)市パンアメリカン(Panamericaine)通りにある集合施設(Complexe Harry)が放火された。原因は不明である。
オ 2月10日 ハイチ中央銀行近くで武器を所持していたとして外国人が逮捕された。容疑者は8人のグループで,5人が米国人,1人がセルビア人,1人がロシア人,1人がハイチ人であった。容疑は武器の所持,ギャングとの関係があるとしても容疑をかけられている。所持していた武器は,ライフル(6丁),ピストル(6丁),複数の弾薬,防弾チョッキ(5着),ドローン(2台),通信機器,複数個のナンバープレート,車両(2台)が押収された。
カ 2月18日 米大使館は,計8人の在外米国人らが武器の違法所持の疑いで逮捕されたことを明らかにした。一方で事件の詳細に関しては公表を控えたいとした。
キ 2月20日 セアン首相は,逮捕された7人の外国人(うち5人は米国人)は,自分を殺害しようとしていたのではないかと語った。CNNに対するインタビューの中で,(ハイチ中央銀行すぐ近くで逮捕された)ハイチ中央銀行を襲う意図はなく,むしろ首相府あるいは議会を狙っていたのではないかと話した。
ク 2月21日 武器の違法所持の疑いで逮捕された7人の外国人(うち5人が米国人)は,米国に向けて出国した。ハイチの司法によって裁かれるべきではないのかという疑問は残ったままである。
ケ 3月9日 ラ・サリーン(la saline)地区のギャングリーダーは,ギャング同士の抗争で怪我をし病院に搬送されたところを逮捕された。
コ 3月22日 ハイチ国家警察は,3県(西県,南県,北県)で2018年12月から3月まで実施された「Chacal」と呼ばれた取締りで,逮捕者62人,銃15丁,車両15台,現金(2,000,000ペソ及び3,000,000グルド)を押収した。逮捕者は,違法麻薬取引,軽犯罪,盗難,誘拐などの容疑である。
3 テロ・爆弾事件発生状況
当国においては当該事件の発生は認知されていない。4 誘拐・脅迫事件発生状況
《傾向》不明《主な報道・事件》特になし。