海外安全対策情報(ハイチ)2015年 10月~12月

平成28年1月20日
1 治安・社会情勢
(1)2015年12月末現在のハイチ治安情勢は,全般的に平静を保っているといえる。しかし,貧困問題に加え,実施中の各種国政選挙により不安定化する危険性は依然として存在している。殺人等の事件発生件数は緩やかな上昇を見せており,医療機関が十分に整備されていないため,事故や事件に巻き込まれて負傷した際には満足な治療を受けることは難しく,周辺諸国への緊急移送が必要となる可能性が高い。

(2)ほとんどの事件は人口が集中した首都周辺地域で発生しており,強盗や誘拐については無防備な外国人や富裕層ばかりでなく一般のハイチ人もターゲットにされ,場所や時間帯を問わずバイクや自動車で尾行し,交差点や通行妨害等により停車したタイミングを狙い襲撃する手口や,レストランや銀行等での待ち伏せ,空港からの帰路を狙った強盗犯罪及び住居への押入り強盗等の手口がみられる。また,殺人事件等の犯罪における銃の使用率は高い。

(3)2015年10月25日の大統領選挙第1回投票,上下両院議員選挙第2回投票,及び市長選挙に関しては,逮捕者も発生し若干の問題は発生したものの総じて安全に実施されたが,対立陣営間の争い,妨害行為,デモやその関与が噂されている殺人事件が少数ながら発生しており,引き続き大統領選決戦投票(2016年1月24日予定)に向けて各陣営の支持者間の衝突の可能性も否定しきれないため,その他様々な要因も含めた問題発生に備え治安状況を注視していく必要がある。
選挙予定日の前後は,いくつかの投票所においては興奮した市民が集まり騒動へ発展する危険性が有る。特に過去の選挙で治安が悪化した西県ポルトープランス(Port-au-Prince)市周辺(首都圏),現在土地問題で住民のデモが続く西県北部アーカイエ(Archaie)市,政治騒動の多い西県プチ・ゴワーブ(Petit Goave)市周辺,レオガン(Leogane)周辺(特にグレシエ(Gresye)市),アルティボニト(Artibonite)県ミルバレ(Mirebalais)市周辺,中央県南部及び北県カッパエイシアン(Cap-Haitien)市周辺都市等は要注意と言えるが、国道1号線沿いの大中都市を中心とするその他地域についても現状では予測が難しく毎日の動向を注視していきたい。
ハイチでのデモは,岩や木の幹を置く,タイヤを燃やすなどの方法によりバリケードを構築して通行妨害し,対応する国家警察及び国連部隊との衝突により興奮状態となった住民が投石等の過激行動をとる場合もあり,歩行者や通行車両が混乱に巻き込まれるケースがある。通常,デモの群衆は警察による催涙弾で鎮圧されることが多いが,銃器を所持している場合もあり,銃撃戦などに発展する危険性も排除できない。
 
 2 殺人・強盗等凶悪犯罪の事例及び一般犯罪の傾向
(1)強盗
《傾向》発生数に減少傾向は見られない。
《主な報道・事件》
ア 12月21日早朝,シテ・ソレイユ(Cite soleil)市ラサリーン(La Saline)地区において,トラック運転手が射殺された。強盗は彼のトラックに乗り込み金銭を要求し,断られたため発砲に及んだもの。
イ 12月23日夜間,デルマ(Delmas)にて男性がバイクに乗った何者かに頭を撃たれ死亡した。携帯電話等が奪われていた。
 
(2)殺人
《傾向》発生数に減少傾向は見られない。
《主な報道・事件》
ア 10月1日,空港通りを私服で歩いていた現役警察官がバイクに乗った2人組に襲われ殺害された。イ 10月18日,ハイチ国家警察特殊部隊(UDMO)に所属する男性が,デルマ10地域において何者かに射殺された。
ウ 12月22日夜間,首都ポルトープランス市からジャクメル(Jacmel)市に向かうバスの中で発砲事件があり2人が死亡した。
エ 12月23日夜間,警察局(DCPJ)の警部が複数回の銃撃を受け死亡した。
 
(3)強姦 
《傾向》発生数に減少傾向は見られない。
《主な報道・事件》特になし
 
(4)デモ(主な報道・事件)
《傾向》増加傾向にある。
 
10月25日の大統領選挙第1回投票,上下両院議員選挙第2回投票,及び市長選挙の結果をうけ,11月中旬から12月までの間,野党を中心としたデモが頻繁に実施されている。首都においては,聖ジャン・ボスコ(St-Jean-Bosco)教会から大統領府を目指すルートが取られることが一般的だが,希に別ルート(空港付近・ペチョンビル市等)を取ることもある。デモに触発され興奮した住民による活動が活発になる危険性も考えられるため,警戒が必要。 
 
(5)麻薬 
《傾向》発生数は減少傾向である。
《主な報道・事件》
10月10日,ハイチ国家警察はジャマイカの犯罪組織オールドハーバーベイ(Old Harbour Bay)に属する麻薬・武器商人の責任者1人の居場所を突き止め殺害したことを発表した。
 
(6)その他 
《主な報道・事件》
ア 10月9日,プチ・ゴワーブ刑務所から囚人8人が脱獄した。
イ 10月12日,MINUSTAHとハイチ国家警察がシテ・ソレイユ市周辺においてギャング一掃ミッションを実施し,ギャングリーダー9人を含む113人を逮捕した。
ウ 10月17日,シテ・ソレイユ市ワーフ・ジェレミー(Wharf Jeremie)においてギャング間(Gallil及びT-65)抗争による銃撃戦が起き,およそ15名が死亡した。
エ 12月23日,シテ・ソレイユ市ドゥルイヤール(Drouillard)及びボワ・ヌフ(Bois Neuf)においてギャング間抗争による銃撃戦が起きた。
 
3 テロ・爆弾事件発生状況
当国においては当該事件の発生は認知されていない。
 
4 誘拐・脅迫事件発生状況
《傾向》発生数は,2013年以降減少傾向であったが,昨年と比べ増加傾向にある。
当国における誘拐事件は,従前より首都圏を中心とした犯罪者集団及びその模倣犯による富裕層をターゲットとした無差別誘拐が大半を占めていたが,ハイチ国家警察及びMINUSTAHの活動により,過去5年または10年で見れば誘拐事件発生件数は低下してきている。
《主な報道・事件》
ア 10月1日から2日にかけて,誘拐されていたフランス人女性が解放されたとの報道がなされた。フランス外務省は,交渉人をいち早く選出し,ハイチ国家警察の交渉等を援助した模様。女性は9月24日に複数人の男に誘拐されたと見られ,誘拐犯は解放のためにフランス大使館宛てに100万ドル以上の身代金を請求したとされるが,どのような経緯で解放に至ったか詳細は不明。
イ 10月3日,ジャクメル市において女性を誘拐殺害したとし,4人が逮捕された。
ウ 10月9日の夜間,首都ポルトープランス市において教会で勤務するアメリカ国籍の女性が拳銃を持った複数名に襲撃され死亡し,彼女と動向していた子供1名が誘拐された。
 
邦人被害
邦人被害は発生していない。
 
5 対日感情
対日感情は基本的に良好であり,特段の変化は見られない。
 
6 日本企業の安全に係わる諸問題
現在,当地に日本企業は存在していないが,当地でのビジネスを模索する企業にとっては,治安情報を考慮した防犯対策及び交通機関等のインフラ環境が懸念材料となっている。
 
7 邦人安全対策のためにとられている具体的処置
当地へ来訪のNGO及びJICA関係者等に対し安全ブリーフィングを行い,必要に応じて,治安情勢及び注意喚起につき当館HP上に掲載すると共にメール一斉配信を実施している。